文化庁が法改正の方針を示す「歌手に報酬が届きにくい現行制度」|知財の豆知識

■導入

店内などで流れるBGMは、店側が著作者にお金を支払っています。

著作権法上の著作者は作詞・作曲をしたものが該当し、歌手や奏者は該当しません。

つまりどれほど楽曲が人気でも歌手や奏者には1円も支払われることはないのです。

「曲のメロディーラインが好き」で音楽を楽しむ方もいますが、「この歌手の声が好き」そのような理由で楽曲が人気になる場合も多くあります。

そのような要因で歌手や奏者も貢献しているにも関わらず報酬が一切ないことは酷に感じられます。

ですので、文化庁はレコード会社や歌手・演奏家に新たな権利を付与する議論を開始しました。早ければ2026年の通常国会で新たな法案を提出する予定と言われています。

■著作権とは

ではまず、著作権とは一体何でしょうか。

思想または感情を創作的に表現したものを「著作物」といいます。

そして著作権とは、その著作物として生み出された文芸・学術・美術・音楽などの作品を、どのように利用するかを決定できる権利を指します。

たとえば、BGMとして楽曲を放送する権利は著作者の権利に関わるものであり、

歌手や演奏者は、著作隣接権を保有する立場となります。

■著作隣接権

著作隣接権は、著作物を実演・録音・放送する人たちに与えられる権利です。

著作権(作詞・作曲家の権利)の“隣”に位置するため、この名前がついています。

音楽分野では主に以下の3者が保有します。

  1. 実演家(歌手・演奏家)
  2. レコード製作者(レコード会社)
  3. 放送事業者(テレビ局・ラジオ局)

では、歌手にはどの様な権利が付与されるのでしょうか?

■ 現行制度の「抜け道」

では、歌手や演奏家にも著作隣接権が正当に付与されているにもかかわらず、なぜ店舗BGMのような場面で報酬が届かないのでしょうか。

その理由は、店内BGMとして一般的に使われる「CD再生」や「ストリーミング再生」について、現行の著作権法が十分に対応できていないためです。

① CDの再生は「二次利用」に該当しない

店内で市販CDを流す行為は、著作権法上、実演家・レコード製作者の許諾や報酬が不要な行為と整理されています。

特に、実演家に分配される 二次使用料 は、

テレビ放送

ラジオ放送

などの 放送を再度利用(再送信)した場合 に限って発生するものです。

したがって、店舗でCDを再生しても、歌手・演奏家には二次使用料は支払われません。

② ストリーミング再生は制度が追いついていない

SpotifyやApple Musicなどのストリーミング音源を店内BGMとして利用するケースも増えています。

しかし、現行法では個人向けサービスを店舗利用する場合の扱い、ストリーミング再生が「二次利用」や「公衆送信」に該当するか、といった点の法整備が十分ではなく、その結果として実演家に報酬が発生しない運用が広く行われているという問題が生まれています。

③ 現行の法解釈を事業者が利用している

USEN、CD再生、ストリーミングなどの店舗BGMサービスは、このような法律上の「解釈の隙間」を前提に運用されています。

つまり、「許諾が不要な行為である」「二次使用料が発生しない」「ストリーミング利用は制度の範囲外」

といった扱いになっているため、法律の範囲内ではあるものの、結果として歌手や演奏家に十分な報酬が還元されない構造が続いているのです。

■結び

しかし、このような課題を抱えたままで、日本の音楽産業は本当に発展できるのでしょうか。

歌手・演奏家・レコード会社といった「著作者ではない立場」にある人々も、作品をより良いものにするために膨大な時間と労力を費やしています。にもかかわらず、現行制度ではその貢献に見合った報酬が得られない場面が多く、創作意欲を削いでしまう恐れがあります。これは、日本の音楽文化そのものの衰退につながりかねません。

一方で、店舗や事業者側にとっては、使用料の引き上げが負担増となり、反発が出ることも当然のことです。

音楽を守りたい人、事業を守りたい人、そのどちらの声も無視することはできません。

だからこそ、両者の立場に丁寧に耳を傾けながら、公平で持続可能な制度を整えることが必要です。

文化庁がこれらの課題を踏まえ、より良いバランスの取れた法制度を提案してくれることを期待したいところです。

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