
■導入
技術が国境を越えて広がる現代において、企業が自社の発明を海外でも適切に保護し、事業展開の自由度を確保することは、以前にも増して重要になっています。しかし、特許制度は国ごとに独立しており、各国で個別に手続きを行う必要があります。
さらに、特許には 新規性 という要件があり、発明は「新しい」ものでなければなりません。そのため、国内で出願した後に海外出願の準備をしているうちに時間が経過してしまうと、他国での出願時期が遅れ、出願人にとって不利益となる可能性があります。
こうした問題を解消するために、国際的には条約が設けられ、一定の条件を満たす場合には 外国出願においても国内出願日を基準(優先日)として扱う ことが認められました。これにより、海外での特許取得手続は大幅に簡素化され、円滑な国際出願が可能になりました。
国際的に特許出願を行う方法としては、下記二つがございます。
① パリ条約に基づく優先権主張出願
② PCT(特許協力条約)に基づく国際出願
では、どちらの方式を利用するべきなのでしょうか。
実は、それを一概に決めることはできません。両者にはそれぞれメリットとデメリットがあり、出願人の事業戦略・資金計画・技術の成熟度などによって最適なルートが異なります。
それでは、次に それぞれの制度の特徴 を具体的に見ていきましょう。
パリ条約に基づく優先権主張出願
パリ条約に基づく国際特許出願(いわゆる「パリルート」)とは、最初に一国で特許出願をした際に得られる「優先権」を利用して、他国に出願する方法です。出願人は最初の出願日から 12か月以内 に他の国へ特許出願を行うことで、最初の出願日を基準(優先日)として審査を受けることができます。
PCT(特許協力条約)に基づく国際出願
PCT出願とは、特許協力条約に基づく国際出願制度のことを言います。日本国特許庁などの受理官庁に出願を行うことで、条約加盟国全てに対して同時に出願したものと同等の効果を得ることが出来ます。PCT出願では、受理官庁が内容を受領した日が出願日となります。
【期間】
外国出願を行う際には、各手続において期限が定められております。ここでは国際出願に関する主な期限についてご説明いたします。
■ パリ出願(パリルート)
パリ条約に基づく優先権主張が可能となるのは、第一国出願日から12か月以内です。
この方式では、各国の特許庁へ直接出願手続きを行う必要があるため、12か月以内に翻訳文の準備を完了させる必要があります。
■ PCT出願(国際出願)
PCT出願において重要となる期限は、①国際出願の期限、②国内移行の期限の2点です。
国際出願の期限
基礎出願(最初に行った出願)から12か月以内に国際出願を行う必要があります。
国内移行の期限
国際出願後、各国に移行する手続(国内移行)は、原則として基礎出願日から30か月以内に行う必要がございます。

【出願日】
外国出願において優先権の主張を行う場合、基準となるのは「出願日」です。
そのため、外国出願において出願日は極めて重要な意味を持ちます。
■ パリ出願
パリルートによる外国出願では、自国(パリ条約同盟国)での最初の出願日を、外国出願においても「優先日」として扱います。
この最初の出願日が基礎となるため、以降の外国出願に大きく影響します。
■ PCT出願
PCT出願の場合、受理官庁(出願人が国籍または住所を有する国の特許庁)に国際出願が受理された日が「国際出願日」となります。
この国際出願日が、その後の国際段階および国内移行の手続きにおける基準日となります。
【費用】
最後にパリ出願を行う際に発生する主な費用についてご説明いたします。

■結び
今回は、パリ条約に基づく国際出願と PCT 出願についてご説明いたしました。
どちらの方式にもメリット・デメリットがあるため、
どのルートを選択することが最適かは、案件の内容や事業展開の計画によって異なります。
そのため、国際出願をご検討の際には、弁理士へご相談いただくことが最も確実かと思います。
国際化が進む中、多くの企業が外国市場への参入やブランド保護を重視するようになりました。
適切な時期に正しい手続きを行うことで、海外での権利獲得や事業展開を有利に進めることが可能となります。
本稿が、外国出願を検討される際の一助となれば幸いです。

