なぜモナ・リザは不思議に見えるのか|知財の豆知識

導入

モナ・リザは、ただの肖像画ではありません。
ある人は「彼女は笑っている」と感じ、また別の人は「笑っていない」と捉えることもあるでしょう。

この曖昧な表情は、レオナルド・ダ・ヴィンチが感性だけで描き上げたものではなく、綿密な計算によって生み出されたものだと言われています。
そこには、ダ・ヴィンチが生涯をかけて培った科学的知識が隠されています。

解剖学|人間の顔は「構造物」である

ダ・ヴィンチは数十体以上の遺体を解剖し、筋肉・骨・皮膚の動きを詳細に記録していました。
つまり、口角を引き上げる筋肉や、目元の筋肉の緊張と緩和の構造を正確に理解していたのです。

そのような背景から、モナ・リザの表情は単に「絶妙」なのではなく、微笑みが生まれる途中の一瞬を捉えたものだと考えられています。

■ 視覚心理学|見る角度で表情が変わる理由

モナ・リザのほほえみが現れたり消えたりするのは、人間の脳が「視野の中心」と「視野の周辺」を異なる仕組みで処理しているためです。

  • 中心視野:形や輪郭を正確に捉える
  • 周辺視野:明暗や感情の変化に敏感

ダ・ヴィンチは、このような人間の認知特性を理解していました。
口元の陰影をあえて曖昧に描くことで、見る人の脳が表情を補完し、「笑顔」を感じ取る仕組みを生み出したのです。

■ 光学|スフマート技法は「空気を描く技術」

ダ・ヴィンチは「自然界に輪郭線は存在しない」と考え、その思想を体現するためにスフマート技法を用いてモナ・リザを完成させました。

スフマート技法とは、輪郭線をはっきり描かず、色や明暗の境界を煙のようにぼかして表現する絵画技法です。
この技法の最大の特徴は、「線で形を区切らない」点にあります。

通常の絵画では輪郭線によって対象を明確に描き分けますが、スフマートでは明暗や色調をなめらかに連続させることで、より自然界に近い見え方を再現します。

結び

現在では、赤外線撮影や多層スキャン技術によって、ダ・ヴィンチが残した下書きや修正の痕跡が解析されています。

モナ・リザは「感性の結晶」というよりも、科学的仮説を視覚化した作品と捉えることができます。
彼にとって絵画とは、「美を描くこと」ではなく、「世界の仕組みを理解し、それを再現すること」だったのでしょう。

だからこそモナ・リザは、500年を経た今もなお、人間の脳を刺激し続けているのです。

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