日本製紙クレシアと大王製紙が争ったトイレットペーパーの判決は?|知財の豆知識

■「長巻トイレットペーパー」裁判をめぐって

トイレットペーパーの長さをめぐって、製紙大手2社が法廷で争いました。

従来品の約3倍の長さを持つトイレットペーパーをめぐり、日本製紙クレシアが大王製紙に対して製造差止めと約3,300万円の損害賠償を求めた訴訟です。

この控訴審判決が2025年10月8日、知的財産高等裁判所(知財高裁)で下され、結果は「クレシアの請求棄却」、つまり特許権を侵害していないという判決です。

■トイレットペーパーが持つ知的財産

消費者がトイレットペーパーを選ぶとき、重視するポイントは「肌触り」「価格」「長さ」などさまざまです。
しかし、そのどれもが実は長年の研究と技術の積み重ねによって生まれています。

たとえば、紙を薄くしすぎると破れやすくなり、巻きを緩くするとロールが崩れてしまう。
逆に巻きを強くしすぎると、手触りが硬く感じられてしまいます。

この繊細なバランスを取るために、メーカー各社は日々試行錯誤を重ねています。

具体的には、

・紙の厚さ(坪量)

・強度(繊維組成や湿潤強度)

・エンボス加工の深さや密度

・巻き方や圧縮率

といった複数の要素を、ほんのわずかずつ調整しながら製品を仕上げています。

こうした調整の一つひとつが企業独自の特許技術として保護され、消費者が感じる「やわらかい」「しっかりしている」「長持ちする」といった使い心地を支えています。

■実際に侵害とされた特許権に関して

問題となったのは、クレシアが2017〜2020年に取得した以下3件の特許権。

①登録番号 第6735251号 

②登録番号 第6186483号

③登録番号 第6590596号 

■ 裁判所の判断

一審の東京地方裁判所は、

「大王製紙の製品は、日本製紙クレシアの特許が定める技術的範囲には該当しない」として、クレシアの請求を棄却しました。クレシアはこの判断を不服として控訴しましたが、2025年10月8日に言い渡された知的財産高等裁判所(知財高裁)の判決でも、結果は同じでした。裁判所は、特許の記載内容や測定基準に不明確な点があると指摘し、そのために「侵害の有無を客観的かつ確実に判断することができない」と判断しました。

つまり、今回の訴訟では「測定方法の曖昧さ」が、侵害を立証する上での大きな壁となったのです。

■結び

トイレットペーパーという、私たちの生活に欠かせない日用品の中にも、実は多くの高度な特許技術が存在しています。一見どのメーカーの製品も似ているように見えますが、各社は「柔らかさ」「強度」「巻きの長さ」などのバランスを追求しながら、日々改良を重ねています。こうした研究開発の過程で、技術的な範囲が他社の特許と重なることもあります。しかし、積み重ねた技術を特許として守ることは、企業が安心して事業を進め、ブランド価値を維持するために欠かせません。

一方で、どれほど優れた新技術を生み出しても、他社の特許権を侵害してしまえば、裁判に発展することもあるのです。今回のトイレットペーパーをめぐる裁判も、まさにその一例といえます。日常生活の中で当たり前に使っている製品の裏には、企業の努力と知的財産の攻防が隠れているのです。

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